振り返れば一年前のこの時期、日本屈指20mランナウトも当たり前の一枚岩大スラブ宮崎県”雌鉾岳”を思い出す。”5.11b核心”という昨年に引き続き破壊力をもったマルチルート。
来年からアルパイン部恒例 “ヒヤヒヤチャレンジウィーク”になりそうな予感…
1日目は手慣らしという事で、他山岳会の人達との自己紹介を済ませてフリーの岩場へ。沢山のルートが茂みの中に点在、好天もあり沢山のクライマーでごった返す。5.8でアップし、5.10a “10やもん”をリード。花崗岩スラブということもあり1グレード程辛め。下部2p〰︎3p目のヌンがけがヒヤヒヤでリードを躊躇するがなんとか全員RP。残り少ない時間で、M隊長希望 5.11b”トップガン”へ。甘々ホールド乗越のワンムーブ核心ショートルート。M隊長はレーザー照射も華麗に交わすトムクルーズさながらRP任務達成!!さすが絶好調のM隊長。続く隊員2名は力及ばず撃墜されてしまいました。次回は隣ルートの”第三の男”などもチャレンジしたい♪
下山後、クライマー御用達の”ちぐさ旅館”へ。一泊二食付き¥6000で鯛の頭付きお造り、焼き魚、干物と魚尽くしでお酒もすすむ。他会の大先輩方と交流ができるのはアルパインクライミングならでは。最後は酒とロープを手にノット講習が始まる楽しい宴。
翌朝も快晴、11月にしては暑く強い日差し。我々のみ”拇岩ダイレクトルート”、他会2、3パーティーは右隣の人気名物ルート”赤いクラック”へ。数分離れたスタート地点から、同じ頂上を目指す。
“親指岩”という木看板に従い入山。岩の矢印を辿り樹林帯を登ること20分。木々の間からそびえ立つ純白の花崗岩。ダイレクトルート下には慰霊碑銘板が掲げられているので分かり易い。
“山は人生の学校である” ジャン•コスト
後に続くパーティーはなし。潮風に晒された錆びついたリングやハーケン、脆い岩肌、核心5.11bに、A0アブミ使用でどこまでいける事か。
⭐︎⭐︎⭐︎ルート詳細⭐︎⭐︎⭐︎
1p:20m (チムニー)
ワイドクラックに沿って、背中ズリズリチムニー登り。下から見るより手足甘く、凹角を突っ張ってうまく足を上げていく。クラックにカム2本打ち、やっと左手にハーケンが見える。チムニーを乗越すと、日向に出て安心のペツルあり。3人立てるステーションでピッチを切る。1、2p一続きも可能。
2p:20m (ルーファイ、支点崩壊、落石注意)
既に難しいがまだ核心にすら辿り着いていない…左手に錆びた支点群が目に入るがルートは立木に向かって直上。ルーファイが肝。右手クラックに沿って登るがホールド、スタンス共に甘く、出だしがやや逆層で下から見るより気持ち悪いバランス。スメアも多用。グラグラの抜けそうな錆ハーケン、クラックを抜けた少し上あたりに上半身ほどの岩が剥がれる寸前(ガバとして使うが全体重預けると落下するだろう)。既に木を見下ろす位置で、潮風により岩肌の風化が酷く脆い。先程よりゆったりとしたステーションでピッチを切る。
3p:30m (スラブ帯)
念のため早々にアブミを準備。
リードは対で、フォローは1つずつ、すぐ使えるように長く垂らした状態でギアラックにかける。そびえ立つ岩肌に、右頭上から左上するルーフ状の岩のクラックが目に入る。スラブにスメアか薄いカチスタンスで、クラックをアンダーで持ち左トラバースが想像できる。フレークを使ってレイバックしながら左上する。CMはまだこんな吹き晒しの高所でレイバックなんて繰り出せない。レイバックは思い切りできないと手も足も外れる(涙)さらに難しくなる。
4p:40m (5.11b核心 A0アブミ必死突破)
左頭上の甘めのフレーククラックを使いやや右上。少し立てそうな甘めのスタンス、左手に柱状節理の岩肌から左トラバース。縦に伸びた柱状節理の滑らかな岩肌は、真っ直ぐと眼下の紺碧の海までつづく滑り台のように感じる。引っ掛かるスタンスなどないようだ。錆びたハーケンに身を委ねるリードの恐怖感は計り知れない。ビレイしていた熟練のAOさんの「落ちるかもしれない」という緊張した一言が今でも頭に残っている。トラバースした後、レストできるスタンスはあるが、眼下の海に落とそうとする垂直の壁が邪魔をし、ヌンチャクを掴んで立つのがやっと。最後は垂直からハングになり、吊り下げたアブミがもたれかかる壁はなく風に煽られる空中ブランコさながら。アブミに足をかけるのでさえ神経を使う。最後のハング乗越で勇気を振り絞る。ビバークできるほどの広いステーションでピッチを切る。
2ndのCMは、3rdのAOの指示のもとアルヌンを残していったが…アブミをかけた際に一緒に誤って回収したアルヌンの位置が悪く、アブミ一つで雑技団並の空中技で乗り越えたと。また、残したアルヌンは3rdが回収しやすいように3rdのロープにかけて上がれば良かったと思った。
望遠で撮っているが実際はこの距離感(汗) ↓ 赤いザックの豆粒が隊長
5p:20m (普通に難しい)
“ビクトリーロード” 階段状で簡単とあったが…それまでが辛過ぎて麻痺しているからか。隊長見立てで4級+。離陸は頭の上の甘めホールドを持ち少し先のガバカチをとる。スタンスも甘めで、1p目が遠いのでグランドフォールに注意。思ったより傾斜が立っていて最初と最後乗越が核心。やや左目に直上して頂上に到達。
山頂に着き無事の登攀を讃え、三人で拳を合わせた。
今回は、M隊長の必死のオールリードに賞賛と感謝を伝えたい!!
事故が免れない脆い岩肌、破断したリングや今にも抜けそうなハーケンは、潮風に晒され年々状態は悪くなるだろう。終了点はまあ新しく、敗退が可能という事でチャレンジしたが、フォローは何度も敗退の言葉が出ていたし、リードも常に安全のボーダーラインを探りながら登っていた事は伝わってきた。
熟練のN夫妻が、今までで一番難しく危険だったというルートはおすすめはできない。支点さえ新しくなればと思うと、岩場を開拓し整備されている方々に感謝が尽きない。
ほっと一息、ハーネスを外して下山。”あれハーネスまだつけてた方が良かった?”と思うくらいのお助けロープ続きの絶壁が続くのはマルチピッチあるある◎下山後は駐車地横のダムから拇岩を見上げる。
最後は興奮冷めやらぬまま、AOさんおすすめのお洒落カフェの甘ーい揚げパンでコーヒータイム。奇跡の生還を果たした後のように、揚げパンの美味しさを噛み締めながらいつもの平和な日々に戻るのでした。